禁煙セラピー

 

ここでは、喫煙者・非喫煙者にかかわらず、すべての方にたばこおよびその害についてお話したいと考えます。

文章中に非喫煙者としての意見を記述している箇所もありますが、もともと僕自身ヘビースモーカーでした。ですから、喫煙者の気持ちも非常に理解しているつもりです。

それを乗り越えて、現在、日本禁煙学会認定指導医になりました。

”僕の禁煙までの道のり”のページ

 

     たばこ煙の成分

タバコ煙には4000種類以上の化学物質が含まれ、そのうち約200種類は有害物質、60〜70種類は発癌物質と言われています。

たばこ煙の分類

主流煙 喫煙者がたばこから直接吸う煙。
副流煙 たばこの先から立ち上る煙。
呼出煙 喫煙者の吐き出す煙。
環境たばこ煙

(environmental tobacco smoke:ETS)

副流煙と、呼出煙が混じり合った煙である。

 

     能動喫煙と受動喫煙

 

能動喫煙 本人の意思により自らたばこを吸うこと。
受動喫煙 周囲の喫煙者の環境たばこ煙を自らの意思に関係なく吸うこと。

 

     能動喫煙による病気のリスク

 

癌(肺癌、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、食道癌など)やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、心筋梗塞、脳卒中などに罹患するリスクが高まります。とりわけ、肺癌は顕著です。

受動喫煙による病気のリスク

能動喫煙は自らの意思により吸うわけですから、病気に対するリスクを認識した上で喫煙することは自己責任と考えられます。昨今問題になっているのは周囲の人への影響、受動喫煙により病気のリスクが大幅に上がるということです。特に家族や然るべき設備が整っていない会社での受動喫煙は深刻です。

配偶者が喫煙者の場合は、肺癌のリスクが2〜3割増加します。また職場での受動喫煙では1〜2割増加します。

また子供への影響も重大です。

出生前後での両親の喫煙により、乳幼児突然死症候群、早産、低体重児出生、小児癌、気管支炎、喘息などのリスクがあがる、もしくはリスクがあがる可能性がある、と言われています。

 

     分煙の効果

 

よく飲食店などで、喫煙席、禁煙席を分けている配慮がされていることがあります。しかし大抵は喫煙席、禁煙席を自由に行き来することができるようになっています。完全に壁で仕切ってしまうと店員も行き来することができなくなるため不便です。

新幹線でも未だに喫煙車両を見かけます。これもやはり自由に行き来できます。

このような措置ははたして受動喫煙防止に効果があるのでしょうか?

結論は”ノー”です。

喫煙室を作って換気を良くした場合(一般的な分煙)
自由喫煙(分煙無し)

の両者について、非喫煙者のニコチンの尿中代謝産物の濃度に有意差は見られませんでした。この結果より、分煙するなら、

飲食店の場合、2軒の独立した建物を建てて、相互に行き来できないようにする

新幹線の場合は禁煙車両と喫煙車両を相互に行き来できないようにする

くらいしないと効果がないでしょう。

家庭での分煙の効果はどうでしょう。家族思いだが、喫煙者である父親は、奥さんや子供の体を気遣って、換気扇の下またはベランダで喫煙していたとします。この場合はどうでしょう。やはり結果は同じです。

家族思いであるなら、禁煙しか方法がないようです。家族の健康と、何より、ご自身が健康で長生きすることが、本当に家族思いではないでしょうか。

受動喫煙防止先進地域(アメリカ、カリフォルニア州)

アメリカのカリフォルニア州は有名です。日本で言いますと、神奈川県が先進都道府県と言えるのではないでしょうか。

まずはカリフォルニア州からお話します。

カリフォルニア州は職場、レストラン、バー、クラブでの全面禁煙に成功しています。15年間に州が喫煙規制のために投じた費用は約1900億円にものぼりました。これだけの費用を投じてどれほどの効果があったのでしょうか。

その州法施行により、受動喫煙はもとより能動喫煙も大幅に減ったと予想されます。その結果、受動喫煙病、能動喫煙病が大幅に減少し、なんと医療費が約9兆円も減少したそうです。

1900億円使って、9兆円を得るのですから、その経済効果は非常に高いものです。

しかし、これで医療費も減って、病気も減ってすべての人が喜んでいるかと言うと実はこの状況を面白く思わない人もいます。

たばこ産業です。

 

     たばこ産業の本音

 

たばこ産業の本音として大変有名なものがあります。

1980年代初め、RJレイノルズ社(キャメル・セーラム・ピアニッシモなどが有名なたばこ産業)は俳優ハリソン・フォードのそっくりさん、デーブ・ゲーリッツさんをイメージキャラクターとして採用しました。タバコに対する社会的風当たりが強まるなか、若い層にアピールして新たな喫煙者を増やすのがゲーリッツさんに課せられた任務だったのです。

RJレイノルズ社役員とゲーリッツとの話題となった会話

(RJレイノルズ社の応接室でゲーリッツさんはたばこを吸っていました)

RJレイノルズ社役員 なんだ、あんたタバコなんて吸うのか
ゲーリッツ 皆さんは吸わないんですか?
RJレイノルズ社役員 冗談じゃない、『喫煙する権利』なんざ、ガキと貧乏人と黒人とバカにくれてやれ。

一日当たり数千人の子供を喫煙に引きずり込むことがあんたの仕事だ。 肺癌で死ぬ喫煙者の欠員補充だ。中学生ぐらいをねらえ。

これは言い方はきついですが、非常に簡潔にたばこ産業の本音を表していると思います。

 

     日本のたばこ、海外のたばこ

 

日本のたばこの一例を挙げます。

喫煙は、あなたにとって心筋梗塞の危険性を高めます。疫学的な推計によると、喫煙者は心筋梗塞により死亡する危険性が非喫煙者に比べて約1.7倍高くなります。

喫煙者にとっては見慣れた光景でしょう。以前はこのような文章はありませんでした。喫煙者に正しい知識を持ってもらうたばこ産業の配慮なのでしょうか?

では海外ではどうでしょう。

カナダを例に挙げてみます。

85%の肺がんは、喫煙に起因します。80%の肺がん犠牲者は、3年以内に死にます。
たばこの煙は、あなたの脳の血管が詰まる原因になることがあります。これは血管をブロックすることにより、脳卒中を引き起こします。脳卒中によって、障害や死が起きることがあります。
妊娠中の喫煙は、早産の危険性が増加します。予定日前に生まれる赤ちゃんは、乳幼児死や病気、障害のリスクが増加します。
喫煙は口腔癌や歯周炎、歯の脱落を引き起こします。

日本のものに比べるとインパクトはありますね。カナダだけに限らず、EU諸国やタイなどもたばこには決められた画像と文章を決められた大きさで掲載する必要があります。

このようにビジュアル的にもたばこに対する病気のリスクを示しております。

値段はどうでしょうか?高いのでしょうか?安いのでしょうか?

日本のたばこ税は、だいたい一箱300円くらいである2009年現在、その値段の6割くらいが税金です。

”半分以上も税金なんて、取り過ぎだ!”

という声がスモーカーたちから聞こえてきそうです。かつては僕もそう思っておりました。

しかし、これら喫煙者が引き起こす能動および受動喫煙病にかかる医療費は、たばこ税ではとても賄いきれない莫大な費用です。

先進諸外国はといいますと、イギリス、フランス、イタリア、シンガポールなどは一箱500〜1000円くらいです(アメリカは州によって違う)。税率も7〜8割程度です。

日本のたばこは、安いほうでしょう。

 

     禁煙の保険治療

 

この調子では今後、諸外国に倣って、たばこ税率の引き上げが考えられます。そうなってくると、ただでさえ馬鹿にならないたばこ代が、家計を圧迫なんてことも考えられるでしょう。そうなる前に禁煙を検討されるのはいかがでしょうか?

実際、僕も喫煙者だっただけに簡単には薦めにくいです。喫煙者の気持ちは非常に良くわかります。しかし、少しでも、

”体のため”

または

”家族のため”

というお気持ちがあるようでしたら、一度試してみるというのも良いかと思います。

これまで、禁煙治療は自費診療でしたが、2006年の診療報酬改定により「ニコチン依存症管理料」新設され、同時に禁煙治療が制約付きですが保険診療でできるようになりました。これは画期的な進歩です。

その制約とは、まず患者さんに対する制約として、

ニコチン依存症のスクリーニングテスト(TDS)でニコチン依存症と診断された者
1日の喫煙本数×喫煙年数(ブリンクマン指数)≧200
患者が直ちに禁煙することを希望
「禁煙治療のための標準手順書」に沿った禁煙治療プログラムについて説明を受け、当該プログラムへの参加について文書により同意をしている者

というものです。これらに関しては一度、禁煙治療を健康保険で実施している医療機関に問い合わせてみるのがよいでしょう。

では、医療機関ならどこでも大丈夫か、ということですがこれがまったくそうでもありません。施設基準があります。

禁煙治療を行っている旨を医療機関内に掲示していること
禁煙治療の経験を有する医師が1名以上勤務していること
禁煙治療に関わる専任の看護職員を1名以上配置していること
呼気一酸化炭素濃度測定器を備えていること
医療機関の構内が禁煙であること

これは当たり前のようですが非常に厳しいです。とくに5番目の構内禁煙です。大病院、たとえば大学病院などはこの要件をクリアできずに施設基準を満たせない場合が多いようです。一度、病院やクリニックに問い合わせてみるか、かかりつけの先生に紹介してもらうのが良いでしょう。

 

     禁煙の薬物療法

 

では実際、禁煙の薬物療法にはどのようなものがあるのでしょう。

ニコレットガム・ニコレットパッチ ジョンソン・エンド・ジョンソン
ニコチネル ノバルティスファーマ
チャンピックス ファイザー

ニコチンガムやニコチンパッチは、ニコチンを吸収することにより、禁煙時のイライラなどのニコチン離脱症状を和らげるものです。実際、僕はニコチネルのお世話になり禁煙に成功しました。余談ですが、その際、ノバルティスの禁煙マニュアルを使用し、日記もつけました。

現在は2008年1月に日本での製造販売が承認されたファイザーのチャンピックスという薬もあります。これはこれまでのニコチンを吸収する薬物とはまったく異なります。

少々、専門的になりますが、その薬理作用に関してですが、

そもそも、ニコチンは中枢のα4β2ニコチン受容体に結合し、快楽物質ドーパミンを放出します。バレニクリン(商品名:チャンピックス)はこのα4β2ニコチン受容体に対してパーシャルアゴニスト効果を呈し、わずかにドーパミンの放出があるためニコチンの離脱症状は抑えられ、アンタゴニスト的な働きとして、喫煙による満足感が得られないという非常に禁煙にとっては良い働きをしてくれます。神経細胞の模式図を次に示します。

わかりやすく言いますと、この薬を飲んでいると、禁煙してもその辛さを軽減することが可能で、なおかつたばこを吸っても満足感が得られない(おいしくない)ということです。

 

     たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(略称 たばこ規制枠組条約)

 

たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(WHO Framework Convention on Tobacco Control:略称WHO FCTC)は、WHOが加盟国に対して、たばこによる健康被害を食い止めるために作成された国際条約です。

この条約は第36条に、

”この条約は、40番目の批准書、受諾書、承認書、正式確認書又は加入書が寄託者に寄託された日の後90日目の日に効力を生ずる。”

とあります。従いまして、2004年11月29日、アルメニア及びガーナが加入したことにより、加入国が40カ国を超えましたので、その日から90日後となる2005年2月27日に効力を生ずることとなりました。

日本の動きは下図参照。

2003年5月21日 ジュネーブで作成
2004年3月9日 ニューヨークで署名
2004年5月19日 国会承認
2004年6月8日 受諾書寄託
2005年2月2日 公布及び告示(条約第3号及び外務省告示第68号)
2005年2月27日 効力発生

この条約の主な内容は次のようになります。

職場等の公共の場所におけるたばこの煙にさらされることからの保護を定める効果的な措置をとる。
たばこの包装及びラベルについて、消費者に誤解を与えるおそれのある形容的表示等を用いることによってたばこ製品の販売を促進しないことを確保し、主要な表示面の30%以上を健康警告表示に充てる。
たばこの広告、販売促進及び後援(スポンサーシップ)を禁止しまたは制限する。
たばこ製品の不法な取引をなくするため、包装に最終仕向地を示す効果的な表示を行うことを要求する。
未成年者に対するたばこの販売を禁止するための効果的な措置をとる。
条約の実施状況の検討及び条約の効果的な実施の促進に必要な決定等を行う締約国会議を設置する。締約国は、条約の実施について定期的な報告を締約国会議に提出する。

この条約を遵守するためにはまず、職場や病院、学校、空港、駅、飲食店、公道、公園など多くの人が行きかう場所での全面禁煙が必要でしょう。喫煙場所は完全隔離されたところのみにするべきです。自宅での喫煙も受動喫煙防止の観点から避けるべきでしょう。

たばこの包装やラベルに関しては、現行のような文章だけではインパクトがないため、画像を用いて健康被害に対する注意を喚起すべきです。販売促進、後援に関しても禁止されるべきでしょう。

締約国会議は定期的に行われ、ガイドラインが追加されるたびに、たばこ規制の速度を増しています。そのガイドラインによると、たばこ産業の社会的資格はないのです。

ただ、このガイドラインの法的拘束力は締約国各国にゆだねられているため、現在のところは日本国内では努力目標に過ぎません。では、ただ、簡単に受動喫煙防止法をつくり、たばこ産業を崩壊させればよいかと言いますと、決してそういうわけではありません。たばこ産業の多くの従業員にも生活があります。できれば国が、たばこ産業の医薬品部門、食料品部門などのシェア拡大により、継続していける支援してあげればよいのではないでしょうか。と、これも簡単にできるものではありません。僕の安易な個人的な見解と読み流してください。

 

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